お子さんの1歳半検診で言葉の遅れを指摘されたものの、「様子を見ましょう」と言われて何となく不安なまま過ごしていらっしゃいませんか。中には療育施設を紹介されて通い始めたものの、半年、一年と時間が過ぎた今も大きな変化がなく、不安を抱えていらっしゃる方もいると思います。
そんな保護者からの相談を受けて面談をしてみると、確かにそのままでは難しいと思われるお子さんがいます。物や人には例えば、「いちご」とか「ママ」などの名前があるということすらわかっていない、無発語または喃語のようなものしか出ていない、視線が全く合わない場合などです。「確かにこの状態では療育施設に通っているからといって、自然に言葉が出てきて喋るようになることは難しいと思いますよ」とはっきりお伝えします。
そんなお子さんのレッスンもお引き受けしていますが、初めて会った時は意味のある言葉がほとんど出なかったのに、1年経った今では3語文を喋り、問いかけに答え、言葉で要求ができるようになるなど素晴らしく伸びたお子さんがいます。1年半前の発達検査から全領域はもちろんですが、特に「言語・社会」の分野でDQが40近く伸びてボーダーを超えるほどになりました。この分野が伸びたということは、そのご家庭が教育力が高い証しです。ご両親がABAを理解し、毎日地道にレッスンをなさったからです。
レッスンを始めて、このお子さんは必ず伸びるとすぐに感じたのは、動作模倣が上手だったからです。拍手、ばんざい、はーいなどの大きな動作はもちろん、手指や口・舌の細かい動きのまねっこも難なくこなしてくれました。言葉も模倣して発音してくれたので、どんどんトレーニングが進みました。また、模倣がうまいということは、幼稚園などの集団社会に出ても、他の子供や先生のまねをして過ごせるということです。学習できるということです。定型発達の子どもたちは、放っておいても幼稚園で先生や周りの子どもの模倣をして成長していきます。そうはいかないのが自閉症ですが、模倣のスキルを身につけていれば、言葉を含めて色々伸びていく可能性があります。言葉のトレーニングは、いきなり発声からさせるのではなく、動作の模倣から練習します。もし、全然こちらの方を見てもくれないので動作模倣なんか無理だというなら、目を引く物を使った模倣や音を立てて注意を引くなどして始めるのもいいと思います。また学習とは、違いや類似点を見つけて規則性に気づくことの連続です。教科の学習、例えば英語では文法を一方的に教わるよりも、自分で規則に気づき、練習していく方が身につきやすいでしょう。そんな弁別する力を身につけるために大切な練習は、マッチングです。注目して物を見る練習にもなります。動作模倣に加え、マッチングも大切です。
言葉に遅れがあるお子さんでも、トレーニングをすることによって伸びる可能性はあります。よく療育で言われるような、気持ちに寄り添っていろいろな経験をさせていればいいとか、何でも褒めて受け入れ、声かけをしたらいいとか、そんなもので言葉が流暢になることはないと思います。別に、心にストレスがあるために言葉が遅れて自閉症になったわけではないのです。脳の機能の障害なのですから、外国語でも教えるかのように、細かく丁寧に教える方がいいのです。気持ちに寄り添って自然に任せて放っておくことの方が、人生の可能性を狭めてしまうこともあります。
音声によるコミュニケーションが取れることを目指し、その方法を体系化したのが応用行動分析ABAです。福山市ではなかなか認知されていませんが、理解が進んでくれることを願っています。
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